醤油

麹室の中での麹菌(微生物)の様子を知ろう【醤油製麹】

2021年3月1日

こんにちは、自家製ギーク主婦ブロガーあさかわだです。前回から引き続き「醤油醸造にまつわる化学的な知識」シリーズのシェアです。

第2回は「麹室の中での麹菌の様子」です

  • 製麹初めの、見た目の変化が乏しい時期(盛り込み)
  • 麹がじんわり温まってくる時期(1番手入れ頃)
  • いくら放熱しても品温が高い時期(2番手入れ頃)

何が起こっているのか分からない、見えない世界。

こちらの資料を中心に、勉強をしたことをまとめました。

知識を元に、麹菌たちの活動を想像します。「お・・・今、麹菌が菌糸伸ばしてるな・・・」と想像できると楽しいのですよ。

麹室の中での麹菌の様子を知ろう【醤油製麹】

緑の醤油用種麹菌、アスペルギルスソーヤ。君は果たして何をするのか。

麹室に入るちょっと前、炊いた大豆と煎った小麦に種麹を合わせる「種切り」の作業から「出麹」までの間を見ていきます。

種切り

大豆に種麹菌を混ぜます。麹菌は大豆の栄養を摂取しながら発芽し始めます。

ミクロン=マイクロメートル 1μ=0.001mm

  • 醤油用種麹は麹菌の胞子とα化デンプンを混ぜて粉状にしたもの
  • 胞子はいわば麹の赤ちゃん
  • 養分を摂取して発芽する
  • よく混ぜて、行き渡らせる(種切り)

麹菌は まだ赤子 雑菌の混入に注意!

 

盛り込み後 麹菌の様子

種切りが済んだ大豆(以下、麹)を容器に入れ、麹室で加温します。家庭だと、電気毛布やオーブンで温める工程です。

麹菌は発芽し、菌糸を伸ばしていきます。

  1. 麹(大豆・小麦)に土台のような菌糸を伸ばす
  2. 上に向かって枝のように分生子柄(ぶんせいしえ)を伸ばす

麹菌は大豆や小麦をエサにして、呼吸をして、成長して、増えます。目に見えないけれど、ちゃんと生き物なんですね。

分生子柄が伸びてくると、麹菌が白っぽくなってきます。

麹菌は 静かに成長中 雑菌から守ろう

麹菌の生育に適した温度

麹菌の発芽・増殖に適した温度は、35度が前後です。けれど、盛り込み直後の加温は庫内温度28度が目標です。

その理由はこちらです。

  • 35度前後は、麹菌以外の雑菌の繁殖も活発
  • この頃の麹は、煮大豆と合わせたばかりで水分量が多く、雑菌繁殖にうってつけ
  • 麹菌はまだ勢力が弱い

麹菌よりも雑菌の勢いが強くなってしまうと、菌糸を伸ばす前に大豆が傷んでしまいます

28度〜30度で麹菌が成長するのを待ちます。何も変化が無いように見えますが、根を張り枝を伸ばすように、生育しています。

麹菌が成長して雑菌よりも強い勢力をもてば、傷みの心配は減少します。また、呼吸熱で30度を超えてきます。それでも雑菌に負けません。

菌糸伸ばし中 雑菌に勝てるまで 30度以下

麹菌の生育に適した湿度

加湿した空気を当てる場合は、96〜98%と高い湿度が適しているとされています。

空気中に含まれる水分は、室温によって変わりますね。湿度100%の空気を当てたからと言って、庫内が湿度100%にはなるわけではありません。そして、理想の湿度はちょっと分からない。

こちらの動画では、麹室の温度30度・湿度65%の温湿度計が映っています。

ハッキリしないとは言え、高湿度が理想だと分かりました。以来、固く水を絞ったキッチンペーパーで保湿しています。

 

カビだから やっぱり しめったとこが好き?

1番手入れ頃 麹菌の様子

手入れをいつするかによって麹菌の様子も違います。私の1番手入れは、麹菌の発熱が始まるか始まらないかくらいです。

じんわり温かい気がする?くらい

手入れは、麹の塊をほぐしてやる作業です。目的は次のとおりです。

  • ムラをならす
  • 品温を下げる

塊をほぐしてやることで、具体的に次の効果があります。

  • 通気性が良くなる
  • 外気に触れることで、温度が下がる
  • 内部に潜む水分が蒸発して、気化熱で温度が下がる
  • 再び混ぜ直すことで、麹菌の発育ムラをならす
  • 下に潰れている麹菌への酸素の供給(あさかわだの考え)

下の写真は家庭で仕込んでいるとよく分かる、内部の湿気過多による塊化。下のほうは「息もできなかろう・・・(悲)」という窒息状態。大豆の盛り込みも厚いのでどうしても塊になります。

下の子たち、苦しかろう・・・すまない

これをほぐして酸素を補給してやると、発熱し始めるというのが、私の製麹ではお決まりのパターンです。

参考資料には、手入れのタイミングはこの様に書かれていました。

  • 盛り込み後15〜18時間後
  • 品温が上がってきた頃

加えて、このタイミングが早すぎると、二番手入れ以降も品温が上昇していくと書かれています。逆に遅い手入れだと、乾燥が進んで菌糸が伸びにくくなるとのこと。

初めて乾燥が気になった時、コップに水作戦。キッチンペーパーの勝ち。

私の1番手入れは早いので、2番手入れ後も温度が下がらないのかもしれません。鍋やプラ容器は湿気が溜まるので、早期の手入れは仕方ないのです。

麹菌の熱を出し始める 麹室温を調整しよう

2番手入れ頃 麹菌の様子

1番手入れの後、麹菌の生育はさらに進み、一度下がった品温が再び上がります。温度が30度を超えたら、2度目の手入れを行います。1番手入れの後5〜6時間とされています。

その時は、次のような様子が確認できます。

  • 大豆の表面が、伸びた菌糸に覆われて白くなってくる
  • 大豆の内部にも菌糸が伸びている
  • 麹特有の香りがする

菌が上手く付かなかった部分がハゲていると思われる、私の麹ちゃん。

目には見えないけれど、麹菌の成長もステップアップし始めています。

  • 胞子によって菌体が増え始める(胞子の着生)
  • 酵素「プロテアーゼ」の生産が旺盛になる

胞子が舞い、菌体がふえ、大豆全体が緑色の麹菌にまとわれていきます。増殖に伴ってプロテアーゼ等の酵素生産が旺盛になります。

醤油用麹菌(A.sojae)は、タンパク質を分解するプロテアーゼという酵素の生成に優れた菌です。その他にアミラーゼ・グルタミナーゼ等の酵素も生産されます。

品温を25〜28度と低めに保つことで、活性の高い麹を得られるとのことです。

活性が高いかは確かめようがありません。2番手入れ後に寒い場所で低温管理した麹が、1番ミッチリ麹菌がついたという経験はあります。要因が低温管理かどうかは不明。

麹菌 酵素生成 低温で

麹菌の生成する酵素について

麹菌は増殖の段階で、複数種の代謝物質を菌体内で生産します。その一部が体外に分泌される「酵素」です。

酵素はタンパク質の一種で、特定の物質の分解をします。生き物ではありません。

 

タンパク質を分解するプロテアーゼ。実は総称で、実際には多種のプロテアーゼが生産されています。

  • アルカリプロテアーゼ
  • 中性プロテアーゼ
  • 酸性プロテアーゼ
  • アミノペプチダーゼ
  • カルボキシペプチダーゼ

同じくタンパク質を分解するグルタミナーゼ。こちらはグルタミンからグルタミン酸を生成します。グルタミンはタンパク質の一種で、グルタミン酸は旨味の元です。

デンプンを分解するアミラーゼも生成されていますが、デンプン分解酵素群のパワーは米麹を作る時に使うA.oryzaeほど強くないようです。

完成した麹と麹菌

晴れて完成した醤油麹はうぐいす色になりました。少し掘り起こすとブワっと粉が舞います。胞子です。

  • 麹菌
  • プロテアーゼ類
  • アミラーゼ類
  • グルタミナーゼ類

これらが大豆と小麦と合わさっている状態になっています。

麹菌は塩水中では増殖が出来ません。麹と塩水を混ぜて諸味になったら、麹菌自体は数ヶ月で天命を全うします。

つまり、この製麹中にできた酵素がこの先の分解を担います。

※乳酸菌、酵母などは発酵後半で出てきます

 

麹室の中での微生物の様子 まとめ【醤油製麹】

麹室での麹菌の様子のまとめです。製麹の目的は、発酵に必要な活性の高い酵素を得ること。

  1. 麹菌の発芽・菌糸を伸ばす
  2. 麹菌の増殖(胞子で増える)
  3. 増殖とともに「酵素」の生成

醤油づくりでは「1・麹 2・櫂 3・火入れ」と言われるくらい、製麹が肝に置かれています。

ですが、家庭に置いて醤油のクオリティを上げるなら「1・垽処理 2・火入れ 3・麹」だと思っています。今も。専門の道具がなく、難しい作業がポイントになります。

垽ひきを頑張ると、美しい醤油

麹は放置気味で作ってきて、上質な麹を目指してきませんでした。簡単に出来ることが、継続には不可欠要素だったのです。

家庭で作る!自家製醤油の作り方

それでも出来上がった醤油は絶品だと感じています。

もろみ

ちょっとお勉強をしたので、ようやっと麹と向き合えるなあというのが正直なところ。これから製麹にも気を配れるかな。

お礼とお願い

最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました。

自分で勉強したことを、噛み砕いて文章にしました。省略もしています。

おかしい、間違っている部分にお気づきでしたら、コメントフォームでお知らせいただけると幸いです。勉強します。

 

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